目が覚めるとまだ昼過ぎだった。
何もする気にならずしばらくボーっとしていたがそれも飽きた。
夕飯の支度をするにはまだ早い時間だし、今夜はカカシ先生も帰ってこない。
今日の七班の任務は隣の街へ書簡を送り届けることだった。
ランクはD、危険を伴うことはないが時間がかかる任務だ。隣町と言ってもその道程には山が二つある。
カカシ先生だけならまだしも子供達の足で一日で行って帰れる距離ではない。
早くても戻るのは明日の夜だろう。
(・・・仕事行くか・・・)
一応有給申請はしていたが職場に行けば仕事は山積みだ。
こんな処でボーっとしていてもしょうがない。嫌ばかり考えてしまいそうだ。
「・・・ぃよっと!」
気合を入れ体を起した。急に起きあがったせいで少し頭がクラクラする。
それを振り払い洗面所へ向った。
「うーわ、酷い顔」
鏡の中の自分の顔を見てげんなりした。
最悪だ。
瞼が僅かだが張れあがっている。泣いていたわけじゃあるまいし。
寝過ぎだな、ただの。
(寝過ぎ寝過ぎ)
冷たい水で顔を洗うと少しはスッキリした気がする。
そのまま髪を結わえアンダーに袖を通した。
(・・・洗濯ぐらいすればよかったかな)
洗面台の横にある洗濯籠には結構な量が溜まっていた。
自分一人ではこんなにすぐには溜まらなかったがやはり二人分だと溜まるのも早い。
こんな時間では洗濯をしても干す時間がない。窓の外からは夕方前の濃い光が射しこんでいる。
明日、朝一で洗濯するか。
どうせ今夜もカカシ先生は帰って来ないのだ。
朝はいつもより早く起きることが出来るだろう。
頭の中に『洗濯』と叩きこんで洗面所を出た。
(とりあえずアカデミーの方に行くか)
玄関先でゲートルを巻きながらこれからのアカデミーの予定を考えた。
もうすぐ中間試験が始まるんだよなぁ・・・。
また忙しくなりそうだ。
ナルトが卒業してから少しは仕事も減るかと思ったが何のことはない。
子供達はいつも何やかやにつけて事件を引き起こしてくれた。
(子供達はもう帰ったかな)
平日に子供達の顔を見ないのはやっぱり落ちつかない。なんだか後めたい気持ちにさえなった。
そう思うと急に子供達の顔が見たくなった。
「さ!行くか!」
今なら悪戯小僧達がまだ残っているに違いない。木の葉丸達がまたエビス先生に追い掛け回されたりしているだろう。
少しだけ楽しくなってドアのノブをまわした。
「・・・・・ん?」
はじめ、鍵がかかっているのかと思った。
(なんで回らないんだ?)
俺はドアノブを回したつもりだったが、ピクリとも動いていなかった。
はてな?と思いつつも鍵を見たが特にかかっている様子はない。
それに俺はずっと家の中に居たのだ。鍵をかけた覚えはなかった。
(カカシ先生がかけたのか?)
カカシ先生もこの家の鍵を持ってはいるが、俺が家の中に居るというのにわざわざ鍵をかけたりはしないだろう。
いや、それよりも鍵はかかってないのだから・・・・。
「げえ」
嫌な考えに行き当たった。
このアパートはかなり古い。俺が越してきたときすでに築30年という年代ものだった。
よくこれまで建っていたものだと感心するようなボロい建物だ。
相当建て付けも悪い。
これまで何度か足入れの扉があかなくなったりベランダの扉が完全に閉まらなくなったりと不具合を起していた。
とうとう玄関まで悪くなったか・・・・。
ドアノブを何度か回したり押したり引いたりしてみたが、ビクとしやしない。
朝はそうでもなさそうだったんだけどなぁ。
ま、こういうボロイ家だ。
何かの拍子に急に悪くなったんだろう。
俺は玄関を諦めてベランダの方から出ることにした。
(大家さんに連絡しないとなぁ・・・)
アカデミーに行きがてら寄ってみようか。
「・・・・・ぁあ?」
なんで開かないんだ?
ベランダを扉を開けよと力を込めたが、そこもまた動かなくなっていた。
「ふんっ!!!」
両手にありったけの力を込めたがピクリとも動きやしない。
ここまでガタが来たのか・・・・・?
「おりゃ!!!」
片足を枠にかけ開けようと試みるが・・・・駄目だ、全然動かねえ。
ガタリともいわねぇぞ・・・・。
扉を開けるぐらいでハアハアと息があがってしまいそうになる。
「・・・なんで開かないんだ・・・・?」
一部の隙もなく閉じられた扉に、そこで、俺はやっとおかしいと気づいた。
(どういうことだ・・・・?)
下履きを投げ捨て、台所の窓へと向った。
(クソ!ここもか・・・っ!!)
しかしその窓もまたビクとも動かない。
風呂場の窓も同じだ。
どんなに力を込めても手応えがない。
まるで結界の中にでも閉じ込められているようだ。
・・・・結界・・・・・?
(まさか・・・・っ!!)
背中に冷や汗が走る。
よくよく神経を集中させるとこの部屋全体に微量だがチャクラの流れを感じた。
「・・・俺は、馬鹿か・・・・・」
呆然と呟くしかなかった。
満遍なくこの部屋全体に結界が張られている。
まるで薄い布にピッチリと包まれているようだ。
一度意識すればありありとわかるその存在に歯噛みしたくなる。
なんで気づかなかった?!
ずっとこの部屋に居たというのに!!
いや、・・・・違う、気づくはずがない。
このチャクラを俺は知っている。
いつも側にあるチャクラだ。
「カカシ先生・・・」
あんたの気配はこの部屋には染みついていて、あんたのチャクラは俺にとって日常なんだ。
「馬鹿野郎・・・・」
わけのわからん真似をしやがって。
俺はまるで閉じ込められるようにアパートから出ることが出来なくなっていた。
(続)